民法887条および889条-条文から兄弟姉妹の代襲相続が一代限りである根拠を読み解く

今回は民法の条文を読み解いてみます。

テーマは以前記事にした代襲相続についてです。

相続の第3順位である兄弟姉妹について、すでに相続開始時すでに死亡していた場合にその子(被相続人にとっての甥、姪)に相続人の地位が代襲されます。そしてもしその甥、姪もすでに死亡していた場合には、その子には代襲されません。という話はどこかで聞いたことがあるかもしれません。

じゃあその根拠はどこにあるのかというと、民法の条文にあります。

一言で言えば「889条2項で準用されているのは887条2項だけであって、887条3項は準用されていないから」となるのですが、これだけだと分からないという方に向けて解説してみます。

代襲相続に関する民法の条文

以下が代襲相続に関する民法の条文です。

(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条
被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条
次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

e-Gov 法令検索

この2つの条文で、誰が相続人となるのかが規定されているのですが、自分も含めて慣れない人にとってはなかなか理解し難いと思いますので、以下で細かく読み解いていきます。

民法887条

(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条
被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

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この条文は、相続第一順位である子、孫、曾孫、・・・に限った話です。相続人の地位は子や孫以外にも、父母、祖父母や兄弟にもありますが、それについては889条に規定されています。

第1項

「被相続人の子は、相続人となる。」とあり、これはそのまま読んだ通りの意味で特に解説の必要はないと思います。

第2項

まず1つ目の条件、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき」というのはそのままの意味で、相続開始時すでに子が死亡していた場合のことです。

つぎに2つ目の条件、「第八百九十一条の規定に該当し」たときというのは、相続人の欠格事由についての規定に該当した場合のことです。欠格事由についてざっくり説明すると、本来よりも遺産を多くもらおうとズルしたり、相続人を死に至らしめて遺産を得ようとした場合などには相続人となることができないという規定です。

3つ目の条件、「廃除によって、その相続権を失ったとき」というのは民法892条や893条に規定されています。相続人の廃除についてこれまたざっくり説明すると、例えば子どもから虐待を受けていたためにその子どもには自分の財産を相続させたくないという場合に、家庭裁判所にそれを申し立てることでその子どもを推定相続人(まだ相続が開始していないので推定となります)から廃除することができます。

以上をまとめて、子が「相続開始前に死亡していた場合」、「欠格事由に該当する場合」、「推定相続人から廃除された場合」には、その子が代襲相続人となります。

最後に但し書きについてですが、「被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」とあります。代襲相続人となるためには直系卑属つまり自分の子である必要があるということです。子に限って言えば「被相続人の直系卑属でない者」という記述はよく分からないと思いますが(直系卑属でない者はそもそも子ではない)、この条文は次の第3項と889条で準用されてそこで意味を持ってきます。これについて詳しく見るとさらに混乱するので、これはまた別の機会に解説しようと思います。

第3項

第3項も第2項と同じような文章の構成になっているので、それについての詳しい説明は省きます。

第2項では子についての規定です。それに対して第3項では、代襲相続人が「すでに死亡していた場合」、「欠格事由に該当する場合」、「推定相続人から排除された場合」には、さらにその子が代襲相続人となるという規定です。代襲相続人の代襲ということで、再代襲と言われます(条文上では再代襲という言葉は使われていませんが)。

そして「子が」ではなく「代襲者が」となっている点にも注意が必要です。子についてだけではなく、第3項により代襲者となった者についても代襲が発生します。つまり子が亡くなっている場合は孫が、子も孫も亡くなっている場合は曾孫が代襲者となり、それ以降も延々と代襲が発生します。

民法889条

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条
次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

e-Gov 法令検索

この条文は、子、孫、曾孫、・・・(つまり直系卑属)と配偶者以外の相続人についての話です。

第1項

「第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合」というのはつまり、子もいなければその代襲者もいないという場合です。その場合は以下の順位で相続人となると規定されます。

第1項第1号で「被相続人の直系尊属」つまり父母、祖父母、曽祖父母、・・・が挙げられています。そして但し書きで「親等の異なる者の間では、その近い者を先にする」とあるので、まずは父母、父母が亡くなっていて祖父母がいる場合は祖父母、父母も祖父母も亡くなっていて曽祖父母がいる場合は曽祖父母が相続人となります。これについて、子がいなければ孫、子も孫もいなければ曾孫が代襲者になるのと同じような考え方ですが、条文によれば尊属の場合には代襲とは言わないようです。

第1項第2号では、「被相続人の兄弟姉妹」が挙げられています。これについては但しも何もありません。

第2項

「第八百八十七条第二項の規定」というのは先にも説明した通りで、子が亡くなっている場合はその者の子が代襲者となる規定です。この規定について、「前項第2号」つまり「被相続人の兄弟姉妹」について準用するということです。これにより、被相続人の兄弟姉妹が死亡していた場合には甥と姪が代襲者となります。

兄弟姉妹の代襲相続が一代限りである理由

条文のどこを読んでも「代襲相続は一代限りである」などという文言はありません。

子については887条1項で相続人となり、その者の子や孫などについては887条3項により無限に代襲が発生します。

そして子やその代襲者がいない場合に、父母、祖父母、曽祖父母など直系尊属が、889条1項1号により相続人となります。

そして子やその代襲者、または直系尊属もない場合に、兄弟姉妹が相続人となり、887条2項を準用することで兄弟姉妹が死亡している場合に、その者の子つまり被相続人にとっての甥や姪が代襲者となります。しかし887条3項は準用されていないため、その者が死亡していた場合に代襲者になることはありません。

つまり最初にも書いた通り「889条2項で準用されているのは887条2項だけであって、887条3項は準用されていないから」というのがその答えになります。これが、兄弟姉妹の代襲相続が一代限りである根拠となります。

ということで長々と説明してきましたが、ごちゃごちゃしてしまい余計に分かりにくくなってしまったかもしれません。

投稿者プロフィール

Imari Tsuyoshi
Imari Tsuyoshi
宇都宮市の行政書士

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